個人のパソコンで遊びに興じていた丁度その頃、社内にパソコンを導入する時期となって早速パナソニックの16ビット事務用パソコンを導入して貰った。まだ「一太郎」のような自動変換ソフトもない頃の定型の漢字と文字しか書けないプリンターではあったが一式の導入となった。連続用紙だったがプリンターで計算結果が漢字交じりで書き出せるという事が嬉しくてたまらなかった。
早速、本格的にそのパソコン用のBASICプログラムを組み直し、搬送能力計算シミュレーション、必要バケット容量、所用動力、チェーン張力計算と長さ、バケット数、フレームやカバー等の規格部品リスト、購入部品リスト作成、等々、今まで2日以上かかっていたものが一瞬で間違いないDATAが得られるようになった。
自分でも極めて満足度が高い成果を得た。何しろDATA設計が終われば後は規格図面集に数量を書き入れれば30分で終わる。早く間違いなく設計終了だから実に小気味よかった。有頂天になったが、その評価は私の所属する小さな部署内から出ることはなかった。しかし、部品の標準化とこの設計プログラムで大きな利益貢献をしたと今でも確信している。
その後、その数値CADともいえるコンベア設計支援ソフトは順調に活用され、暫くして私が会社を辞めることになった時も、その設計には何も困らなくなっていた。(他の装置も手掛ける余力が生まれていた。)しかし、予想外のことが起きたと、後に人からうわさに聞いた。ずっとそのプログラムに頼って設計をしていたので使う設計者がそのプログラムの意味が次第に分からなくなり、プログラム変更や発展進化が困難になって行ったと聞いた。
私はプログラムソフトの使い方は教えていたが、演算の内容説明は全く遣っていなかった。BASICプログラムが理解できて、尚且つバケットコンベアの設計計算式を理解できている人間は何処にもいなかった。恐らく世の中にもいなかった。
意味も分からないでプログラムを使い続ける恐ろしさは今では我社のみならず多くの職場で起きているような気がする。コンピューターを使うということが人の作ったアプリケーションソフトを使うという事に他ならないのが殆どだ。ワードやエクセルは未だ考え方は使用者の物だが、構造解析やシュミレーションソフトやCAD、経理ソフト、購買ソフト等々、その実際のプログラムの作りは開発者任せであり結果はソフトが教える立場だ。その草分け的出来事だったのもしれない。
この出来事は私の退職後十年位後の出来事だったかもしれないが、その影響かどうか、会社ではそのコンベアから撤退することになった。今はソフトの管理を怠れば当たり前に起きうる出来事だ。
元々、同じような仕事の繰り返し設計でコンベアを進化させる時間が取れないからコンピューター化したものだったが、逆に私がその業務の発展を止めてしまったのかもしれない。例えて言えば、手作りの饅頭は百年作って売り続けることは難しくないが、一度完全自動化してしまうと、やがてその設備がなければ饅頭が作れなくなってしまうようなものだ。人間の進化に潜む弱点を我々は常に配慮し続けなければならない事例だ。
さて、ここまでは私がプログラマーにはなり損ねたが、初期のコンピューターを駆使した自慢話だったが、これからは私がコンピューターにどんどん取り残されることになっていく。
株式会社プレシード
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