社長の部屋CEO's ROOM

03.随想編

タクシードライバー

2014.10.20

 この一週間は東京、台北、上海、名古屋と実に動き回った。日本国内では公共交通機関の発達と土地勘があるので出張でタクシーを利用する機会は少ないが、海外では今回もよくお世話になった。日本と違って海外では、乗ったらメーターが上がるのをハラハラするほどでもなく手軽に利用できるのはありがたい。外国からくる人にとって日本はタクシー料金が高いのは何とも不便ではなかろうかと思う。
海外では一般的にタクシードライバーの社会的身分は高くない。世界の多くの大都市では地方や海外からやってきて手軽につける職業でもあるようだ。言葉は通じなくても行先だけどうにか伝われば大きなトラブルもなく連れて行ってくれるのは何ともありがたい。
 社会的に身分は決して高くないが、タクシードライバーは雇われてはいても個人経営の原点のように感じる。給与体系は,少ない基本給に出来高上乗せというのが世界中の基本ルールのようだ。客をじっと待っていたり,車を止めて寝ていても生活できるほどの給与にはならない。どこへ行けばいい客が拾えるか、時間によったり天気によったり、曜日によって待機したり流す場所を判断しなくてはならない。誰かの指示待ちで動く労働者では生活できないのだ。皆それぞれ一生懸命工夫する、客を乗せれば今度は早く目的地へ到着する道も工夫する。皆、道に詳しいし、ホテル名や地名を実によく知っている。経営者と同じだなあと感心する。
 そう、皆自分を経営している。自己責任で生活を守り向上させるために一生懸命に策を練り、道を覚え天候で客の動向を予測する。判断が悪ければすぐに身入りが減るし、対応が悪ければ客から会社に携帯ですぐにクレームが入る。けっして収入も高くないし、常に客を捜し、安全に気配りし、顧客とのコミュニケーションに気を配るという大変な仕事だが、みなさん其れなりに楽しんでいるようにも見える。それは経営の楽しさ、自由の楽しさだと思う。自己責任で動く世界は、人から指示されことをこなすだけの職業とは違った楽しさがあるのだと思う。
 私が常日頃口にする「主体者たれ」がここにもあるように思う。決められたルールを守るという最低ルールを果たせば鉄道や路線バスの運転手と違って自己の判断で生計をマネジメントする。収入をかけて良くも悪くも判断した成果を受け入れるという納得できる職業だ。自分だったらどの辺へいってどのような判断して営業するだろうかと考えることがよくある。会社とは本来、タクシー会社のように場を提供しその設備と環境を利用して夫々が工夫し収入を得て人生も収入も拡大させる、そのような存在であるべきだと創業のころより思っている。遣り甲斐も生き甲斐も自分で工夫するところから生まれ、失敗は自己責任とともに会社も支えてくれるのが組織で働くということだと。就業規則でがんじがらめ縛りそれに従うだけで収入を得るような従来型の雇用関係は嫌いだ。人間は責任果たしながら本来自由でありたいものだ。
ちなみに国内でもドライバー個人やタクシー会社によって運営方針も様々だ。タバコ臭く二度と乗りたくないというタクシーもあれば今度もこのタクシーに乗りたいという車もある。京都のMKタクシーなど一時サービスの模範として評価を上げたし、やがて客が選んで乗ってくれるようになった。打算だけでやっているのではないだろうが、いいサービスは結局、自分達の収入の拡大と生活の向上にもなる。私が経営理念の一つに謳う「感動を想像する」の手本のようにも思う。
 余談ながら熊本にも熊本交通タクシーというタクシーが走っている。今度、タクシーに乗る機会あったら是非、選んで乗ってみてもらいたい。実に気持ちよく応対して目的地まで運んでくれる。不愉快な気持ちで降りるタクシーと、また乗りたいと思うタクシーにビジネスの原点を見る思いだ。降りるときに「私はこのタクシーの感動創造に負けてるなあ」と反省と発奮を呉れる会社でもある。私も仕事において市場に「感動を想像する」会社でありたいと改めて思う。

2014年10月20日

株式会社プレシード
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